希望のカタチ Vol.5 デザイナー Gwenael Nicolas

Interview




見たことのない未来へ、
一歩を踏み出すデザインの力

フランスに生まれ、25歳で単身東京へ。以来、プロダクト、空間、ファッションなど領域を超えてさまざまな仕事を手がけ、KANEBOのデザインにも携わってきたデザイナーのグエナエル・ニコラさん。日本の文化や美意識にタイムレスでユニバーサルな力を見出し、まだ見たことがない未来を形にしてきました。そのデザイナーとしての歩みを振り返りながら、ニコラさんが見つめる「希望のカタチ」に迫ります。

Profile
Gwenael Nicolas

フランスで生まれ、1991 年に来日後、東京にてデザイン会社キュリオシティ設立。家具や化粧品パッケージをはじめ、GINZA SIX、フォーシーズンズホテル大阪などの空間デザインを手がけ、世界的にも高い評価を得ている。KANEBO のプロダクトデザインも担当。

デザインは、0から1を生み出す力

ニコラさんはさまざまなデザインの仕事をされていますが、最近注力されているプロジェクトや、関心を持たれているテーマはありますか?

これまでにプロダクトや店舗のデザインをたくさんしてきましたが、特にファッションの世界は移り変わりが早いから、新しいお店が数年でなくなってしまうこともあって、それはちょっと寂しい。もちろんいまもファッションの仕事は楽しいけれど、最近はホテルなど長く残るデザインに関心があります。いま京都で旅館の仕事をしていますが、建物のデザインを考えたすぐ後に、最近取り組んでいるマガジンのデザインをしたりするんです。時間軸やスピードの違うプロジェクトが同時に進んでいて楽しいですよ。

ニコラさんに仕事を依頼する人たちは、どんなことを求めているのですか?

クライアントの中には、すでに成功している企業やブランドが多く、その分野で世界一のところもあるから、もうデザインを変えなくてもいいんです(笑)。それでもうちに来るクライアントは次の時代が見たくて、提案やオピニオンを求めている。私自身、「いま会社にこういう問題があって、どうしたらいいですか?」と問われるような、マイナスをゼロに戻す仕事はしたくないから、相性は良いですよね。

問題解決よりも、新しい可能性を提案する仕事がしたいと。

そうです。デザインの価値は、0から1をつくること。0から1がなければ、1から90にも100にも進みません。アイデアやビジョンがあれば、「なるほど、これをつくりましょう」と人が集まってきてくれる。デザインには、未来を示して、人を動かしていく力があると思うんです。だから個人的には、大統領になりたいくらい(笑)。大統領は、未来を決めるパワーを持っているじゃないですか。デザインにもそのパワーが必要。「素晴らしいアイデアだね。でもちょっと怖いよね」と止まってしまうのは、凄くもったいないと思います。

周りを巻き込む力も必要になりそうですね。

その通りです。新しいものをつくる時、最初はみんなパニックになるけど、しっかりコミュニケーションをすれば少しずつ理解してもらえます。仮にクライアントに一度「NO」と言われても、その「NO」は「Not yet」かもしれない。新しいものをつくるには、アイデアを出すだけではなく、それをどう伝え、現実に近づけるかが大切です。それには時間も労力もかかるけど、情熱を持ってそれに取り組める人と仕事がしたいといつも思っていますね。

以前に、自社プロダクトとして雫の形をした香水ボトルをつくった時、最初はガラス職人さんから技術的に無理だと言われました。でも、1ヶ月後に電話が来て、箱を開けたらそれができていたのを見た時は涙が出ました。私が出したアイデアを、職人さんがプライドを持って実験を重ね、形にしてくれた。その瞬間、これは私のデザインから彼のデザインになったと思いました。

雫が水面で跳ね返る瞬間を切り取ったような香水デザイン。

タイムレスでユニバーサルな日本の文化

ニコラさんがデザインに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?

14歳の時に『スター・ウォーズ』を見たことです。フランスの田舎で生まれた自分にとって、文化というのは「フレンチスタイル」のようにすでにあるものだった。でも映画の中には、見たことのない形、服、食べ物があって、文化は自分でつくれると気づいたんです。最初は映画の仕事を志しましたが、現実にあるものをつくる方が面白いと思ってデザイナーになりました。

なぜ活動の場に日本を選んだのですか?

ヨーロッパでは、車、グラフィック、インテリアなどデザインがカテゴリでわかれていたけど、ひとつに決めたくなかったんです。ある時、雑誌でオリンパスの「O-Product」というカメラなどをつくった坂井直樹さんのインタビューを読んで、「この人はどうして色々な領域のデザインの仕事ができるんだろう」と思ったんです。そして、アイデアを実現させるプロセスを勉強したいと思い、25歳で東京に来ました。当時の東京は、ショップデザインひとつ取っても、フランスで見てきた伝統的な空間とは全然違って凄く未来的で、とてもワクワクしました。「これがショップなの?」「なぜクライアントはOK出したの?」と(笑)。

来日してからは、どのように仕事を始められたのですか?

最初の仕事は、坂井直樹さんとデザインした仏壇でした。ヨーロッパで色々なデザインを学んで、日本で最初につくったのが仏壇。意味わからないよね(笑)。でも、知らないことを勉強するのが楽しいんです。何も知らない状態で日本に来て、キャリアや戦略を考えていたわけではなく、「勉強したい」「知らないことを教えてほしい」という気持ちだけがあった。その中で、三宅一生さんをはじめ多くのデザイナーや建築家、クライアントから学んできたし、一緒にいると勉強になると思える人たちと仕事がしたいという気持ちがいまも強いですね。

日本のデザインからは何か影響を受けましたか?

日本のデザインは、タイムレス。200年前の着物を銀座で着ている人がいてもおかしくないけど、200年前の洋服をパリで着ていたら、誰かが警察に通報するかもしれない(笑)。古いものが残っているからこそ、新しいものが入ってきても違和感がない。それは凄い文化ですよね。また、日本のデザインはユニバーサルでもある。自然への感覚と美意識が近く、どこか余白もあるから、ひとつのスタイルに閉じず、色々な文化の人が自然にコネクトできる。グローバルな仕事が多い私たちにとってもそれは大事なことです。

大切なのは、「機能」よりも「アイデンティティ」

これまでに数多く手がけられている化粧品のデザインについてもお聞かせください。

化粧品はとてもパーソナルな存在で、朝起きて最初に見るもので、寝る前に最後に見るものでもある。だからデザイナーの責任は大きいですよね。化粧品のデザインで機能とともに大事にしているのは、アイデンティティ。たとえば、KANEBOの「フュージョニング ソリューション」はキャップが少しずれていて、みんな最初は不思議そうに触れるんです(笑)。そこに機能的な意味はないけれど、隙間からあふれ出る光を、「HOPE」の象徴として表現しました。コンセプトとデザインを一致させて顧客にストーリーテリングすることが大切だという思いからです。同時に、少しだけ見える着物の裏地の柄のような、「粋」の感覚も表現できたと思います。ミニマムだけど記憶や感情に訴えかけるようなデザイン。完璧につくることもできるけど、少しずれていることで新しい美しさが生まれる。これも日本的な感覚かもしれません。

これからの化粧品にはどんな可能性があるとお考えですか?

化粧品は、もっと自由な存在になれると思います。かつてはアメリカ的なモダンライフのイメージが重視されていた時代もありましたが、最近はアジアの国々も、自分たちの文化や自然のエッセンスをモダンなデザインに発展させています。特定の文化色が強くなりすぎると閉じてしまう危険もありますが、いまの若い世代には国や文化を対立構造でとらえる感覚はあまりない。そういう意味でも、化粧品はもっといろいろな背景を持つ人に届くものになれると思います。
ジェンダーや年齢についても、これまでのように既成概念にとらわれる必要はなくなってきています。KANEBOでもそうした感覚を大切にしながらデザインしていますし、正直自分が使いたいものをつくっているところもあります(笑)。
でも全体を見ると、化粧品はまだトラディショナルな分野。これからは見た目だけではなく、内面のビューティーについても考えていけると面白いと思います。化粧品が誰にとっても、自分と向き合う時間を変えるものになる可能性もある。容器の形だけではなく、体験や時間のあり方まで含めて考えると、化粧品にはまだまだいろいろな可能性があると思います。

ずらしから漏れ出る光を希望の象徴に見立てたKANEBOのプロダクトデザイン。

未来は一人ではなく、
みんなでつくるもの

デザインは、未来のために何ができると思いますか?

いまはAIなどもあって、基本的にできないことがない面白い時代。だからこそ「なんで新しいことをやらないの?」と思うし、私はいつも新しい可能性を見たいんです。毎回デザインをする時は、「10年前にもできたデザインになっていないか」と考えます。時代は常に変わっているから、2026年には2026年にできることをやらないといけない。それは時代に合わせることではなく、次の時代をつくるということ。なぜかみんな未来をどこかで怖がっていて、「新しいことをやりたい」と言いながら、「やったことはありますか」「見たことはありますか」ということを気にする。でも、見たことがあるものは、もう新しくはないですよね。

未来への不安が強まっているような時代だからこそ、0から1をつくるデザイナーの役割がますます大事になっているのかもしれません。

「どうすればつくれますか」ということが最初はわからなくてもいいと思うんです。未来は一人でつくるものではなくて、みんなのパワーとアイデアでつくればいい。0から1をつくる人がいれば、自分よりも知識や技術を持っている人たちが1を100にしてくれる。「わからないからやらない」じゃなく、「わからないけどやってみる」が大事ですよ。

未来をつくるために大事なのは、行動することなんですね。

「やりたい」と思ってアクションすることが大事だけど、それが一番難しい。いまは多くの人が少し受け身になっている時代かもしれない。だからこそ必要なのは勉強することと、それを習慣にすることです。本を開いて知らないことが書かれていた時に、わからないと敬遠するのではなく自分で調べてみることが大事。私は毎朝、本やインターネットから色々な情報を得て、他のデザイナーやクライアントが何をしているかを知るようにしていますし、毎月ひとつテーマを決めて勉強しています。たとえば今月は白い花、来月はフレンチワイン。1年で12テーマ分、賢くなれる(笑)。それはとても楽しいことです。
KANEBOの「I HOPE.」の広告を初めて見た時、凄くパワフルで素晴らしい世界観とメッセージだと感じました。そして、その先にあるのが「I WILL.」だと思いました。それぞれにHOPEはあるけれど、それに向けてアクションすることが大事。「I HOPE.」はファーストステップで、ネクストステップが「I WILL.」なのだと思います。

取材・文:原田 優輝  撮影:鈴木 陽介